昭和三十六年一月、平城宮跡においてはじめて多数の木簡が出土し、日本における木簡
の存在が急に注目されるようになってから、すでに十八年が経過した。その間、北は東北
から西は九州まで、全国各地の遺跡での木簡の出土が相つぎ、現在では総数三万点を超え、
時代も飛鳥・奈良・平安を中心に、中世・近世にまで及んでいる。
こうした趨勢の中で、木簡についての調査研究も徐々に進展をみせ、木簡の史料として
の重要性も次第に強く認識されるようになってきた。しかし日本の木簡とその源流である
中国の簡牘との関係をはじめ、木簡そのものについての基礎的な研究はまだ緒についたば
かりで、多くの重要な課題が山積している。
しかも、土中から廃棄されたままの状態で出土する木簡は、伝世・保存された紙の文書・
記録と異なる種々の特性を備えており、その出土状況に関する精確な記録の有無が、木簡
の史料としての死命を制する場合が多い。 また出土地の拡大と出土数の増加に伴なって、
個人による情報の蒐集も次第に困難となってきている。
さらに、木簡の研究には物に則した考察が不可欠であるが、そのためにも木簡を永世保
存する必要があり、その科学的な保存法を確立し、保存処置を推進することが現下の課題
である。
このような現状に鑑み、私たちは発掘調査に関係する人たちとの密接な連携・協力のも
とに、木簡に関する情報を国内に限らず広く蒐集整理し、物に則しての木簡の基礎的問題
やその保存法の研究を進め、相互の理解を深めるとともに、その成果を広く一般に普及し、
正確な史料としての活用をはかり、さらに今後の新しい木簡の出土に備えることが肝要で
あると考え、ここに木簡学会を設立することとした。
この趣旨に賛同される同学の士の協力を期待する次第である。
昭和五十四年三月十日
木簡学会設立準備委員
青木 和夫
大庭 脩
岡崎 敬
門脇 禎二
狩野 久
岸 俊男
関 晃
田中 琢
田中 稔
土田 直鎮
坪井 清足
直木孝次郎
早川 庄八
原 秀三郎
平野 邦雄